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ゆきのいちにち
雪の一日
岡本 綺堂
「新潮」1933(昭和8)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,354 字 · 5 页
なんといっても、戯曲には舞台が伴うものであるから、完全なる劇場をも持たない地方の人々の多数が、戯曲をよろこばないのは当然のことで、単に読むだけに止まるならば、戯曲よりも小説を読むであろう。大きい劇場が絶えず興行しているのは、東京以外、京阪その他幾ヵ所の大都会にかぎられている。したがって、観客の数も限られ、またその興行の時間も限られている。それらの事情から考えても、場所をかぎられ、時間を限られ、観客をかぎられている戯曲は、どうしても普遍的の物にはなり得ない。
それに反して、普遍的の読み物のたぐいは、場所をかぎらず、時を限らず、人を限らず、全国到るところで何人にも自由に読み得られる。単に内地ばかりでなく、朝鮮、満洲、台湾、琉球は勿論、上海、香港、新嘉坡、印度、布哇から桑港、シカゴ、紐育に至るまで、わが同胞の住むところには、総てみな読まれるのである。寒い国の炉のほとりに、熱い国の青葉のかげに、多数の人々を慰め得るものは――勿論、戯曲もその幾分の役目を勤めるであろうが、その大部分は小説または読み物のたぐいでなければならない。筆を執るものは眼前の華やかな仕事にのみ心を奪われて、東京その他の大都会以外にも多数の人々が住んでいることを忘れてはならない。