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ゆきのうえのあしあと
雪の上の足跡
堀 辰雄
「新潮」1946(昭和21)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,685 字 · 12 页
チェホフの筆だと其処が非常に美しいんですが、そういうもの寂しい自然がすっかりその学生の心をめいらせているのです。――そんなものからチェホフは小説を書きはじめていますが、日本のいいものはそれとは反対に、一番最後にそういうところへわれわれを引きずり込んでゆくように思われるんですけれど……。
主 確かにそういうところがあるだろう。これから君たちは大いにそういう fatal なものと戦ってみるのだね。僕なんぞも僕なりには戦ってきたつもりだ。だんだんそういう fatal なものに一種の詮めにちかい気もちも持ち出しているにはいるが。しかし、まだまだがけるだけ※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)がいてみるよ。……(ぱあっと夕日があたって来だしたのを見て、窓をあける。)毎日、こうして雪のなかの落日を眺めるのが愉しみだ。なんだか一日じゅう、冬の日ざしが明る過ぎて、室内にいても雪の反射でまぶしくって本も読めずに、ぼやぼやしながらその日も終ろうとする、――そんな空ろな気もちでいるときでも、この雪の野を赤あかと赫やかせながら山のかなたに落ちてゆこうとしている日を眺めると、急に身も心もしまるような気がするのだ。