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ゆきのひ

雪の日

近松 秋江

「趣味」1910(明治43)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,365 字 · 17 页

青空文庫

私の家、その時分はまだ米屋をしていたころです、ですからもう十年にもなります、すると問屋から二十ばかりの手代が三日置きくらいに廻ってくるんです。それがいかにもシャンとした、普通な口数しか聞かない、おとなしい男で、私は『ああ嫁にゆくならこういう人の処に行っていっしょに稼ぎたい』と思って――その時分は、米屋の娘だからやっぱし米屋か酒屋かへ嫁に行くものとただ、普通のことしか思っていなかったのです。何でもあの時分が大事なんですねえ。

そりゃ縁不縁ということもあり、運不運ということもありますが、やっぱしそれ相応な処へ、いい加減な時分に、サッサと嫁いてしまわねばとんだことになってしまう。どうしたって私とあなたとは相応な縁じゃないんですものねえ。――そうして私、その手代が三日置きに廻ってくるような気がしましたよ。すると、米搗きの男なんかが、もう私の心持を知っていて、その男が来ると、姉さん来ましたよと言ってからかうんです。からかわれてもこっちは何だか嬉しいような気がしました」

「フウ。それからどうなったの」

「別にどうもなりゃしません。ただそれだけのことで、――そうしているうちに兄さんにあの嫁が来て、それから、私は自家を飛びだすようになったのが失敗の初りになったんです。