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ゆきのたけしとうげ

雪の武石峠

別所 梅之助

「山岳 十の一」1915(大正4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,818 字 · 12 页

青空文庫

小舎の前に立って、おじいさんに山々を教えてもらう。中村清太郎氏が、ここで写した画の複写をもってきたので、大部わかる。白馬や、立山や、越路の方の峰には、雲が迷っていたけれど、有明山、燕岳、大天井、花崗石の常念坊、そのそばから抜き出た槍、なだらかな南岳、低くなった蝶ヶ岳、高い穂高、乗鞍、御嶽、木曾駒と、雪をまとうた群嶺は、備をなして天の一方を限っている。右手は越後、越中、正面は信濃、飛騨、左手は甲斐、駿河。見わたす山々は、やや遠い距離を保って、へりくだっていた。しかも彼らは、雪もて、風もて、おのれを守り、おのれの境をまもっていた。知らず、あの沢は何を収め、あの峰は何をといているのだろう。山は答えず、笑みもしない。私の足は冷えてゆく。

おそくなるのを恐れて、私は早々にもと来し方へとおりていった。わがゆく方には、まえと同じ景、刻々にひらかれる。下りとて、さすがに来た時ほど悩まぬ。それに、さきに自分たちのつけた足あともある。ただこの大観をたのしむほどのゆとりに乏しい。滑らじと足ふみしめて、杖を大事につきたてる。

袴腰をも脱した。道はますます楽になった。うちむかう連峰の白と紫とは、薄墨色にかわってゆく。