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ゆきおとこ
雪男
中谷 宇吉郎
「西日本新聞」1955(昭和30)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,075 字 · 3 页
ヒマラヤの山奥に、人間に似た怪獣が住んでいるという伝説は、ずっと昔からあった。ヒマラヤの住人たちは、この怪人をヤティ(縁起の悪い雪男)と呼んでいるそうである。
この怪人のことが、急に問題になり出したのは、今から四年前に、英国のエヴェレスト登山隊長シプトン氏が、その足跡の写真を発表したのが、きっかけである。
エヴェレストに近いメンルンツェ氷河の上で、雪の上に、長さ一フィートばかりの、人間の足跡によく似た足跡が残されていた。少なくとも二頭以上が打ち連れて通ったと思われるものであった。
この写真は早速動物学者たちの間で問題になった。そしてその鑑定では、多分ラングール猿の足跡だろう、ということに落ちついた。しかし当のシプトン氏は、この鑑定に不服で、反対意見を発表した。ラングール猿は菜食動物であるが、標高一万九千フィートの氷河の上で、どんな植物があり得るか、またラングール猿の足跡は、どんな大きなものでも、長さ八インチを超えるものは、今まで知られていない。ところが今度の問題の足跡は、十二インチ以上もあった、というのである。
結局、この話は、だんだん忘れられて、それ切りになってしまった。