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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
ご足労でも、こちらまでおいでねがいたいので……ええ、笠原さんの奥さんのことで。お目にかかってくわしく申しあげます」
小田原の警察署へ出向いて名をいうと、折襟の服を着た警官が椅子から立ってきた。
「私は交通二課の事故係です。伊沢さんですか。ご苦労さんでございます。どうかこちらへ」
ニスを塗った板張りの衝立が外套掛けにも間仕切りにもなって、大部屋の奥のほうを二坪ばかり仕切ってある。むきだしの丸テーブルと椅子しかない面会所といったところに伊沢が落着かない顔で掛けていると、さっきの事故係が署長といっしょに入ってきた。
「署長です。遠いところお呼びたてして」
そういいながら名刺をよこした。
「失礼ですが、笠原忠兵衛さんとはどういうご関係で」
「同業……祖父の代からの古い交際で」
「奥さんのほうは?」
「友人といったところです……奥さんはまだこちらに居られますか。なにか、むずかしいことでも?」
「笠原さんの奥さんのことですが」
署長は困ったような顔になって、
「居られます。お引取りねがいたいのですが、どうしてもお帰りにならないので」
「どういうことでしょう」
「殺されそうだから、保護してくれと言われるんですがねえ」