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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
ねがえるなら、あまりひどい光景にならないようにと念じているうちに、こんどは安芸子の手があがって行き、滋野の胸のあたりを撫でるようにしながら、なにかささやいた。
伊沢の耳には、とうとう、あなたも……と聞えた。
模糊とした霧の渦の中で、二人の影が動いたような気がした。たぶん、なにか新しい発展をするのではないかと恐れているうちに、風が出て霧が流れ、また情事の舞台があらわれだしたが、霧に濡れた下草がそよいでいるばかりで二人のすがたはもうそこにはなかった。
昼すぎホテルから電話をかけたら、笠原は仙石原でゴルフをしているということだったので、時間をはかってやってきたのだったが、細君がこんなことをしているようでは笠原はまだ帰っていないと思うしかない。
長い硝子扉の側面につづく翼屋のようになった二階の窓に灯がついた。ラリーク式の窓の大きな部屋で、赤味がかった、カーテンの裾のあたりに淡い光が滲んでいる。丈の低いフロアスタンドの夜卓に置いたサイドランプの光なので、すると、あそこが笠原の細君の寝室なのだろうと、そんなことを考えながらぼんやりと見あげているうしろから、誰かにぐっと服の襟を掴まれた。