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ゆきざっき

雪雑記

中谷 宇吉郎

「中央公論」1937(昭和12)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,988 字 · 20 页

青空文庫

初めから判っていたように、そんなことが出来るはずのものではない。そして事実三カ月かかってもまだ切れなかったのである。どうしましょうかという相談があっても、まあ今に切れるようになると思って毎日切っているより仕方ないでしょうねと曖昧な返事をして置くより外に考えも浮ばない。随分頼りない話である。

ところが不思議なことには、最近になって見事に真直に切れるようになったのである。別に何処をどう改良したというのでもなく、依然として安全剃刀の刃を手に持って切っているだけなのであるが、切れてさえくれればそんな詮索をするまでのこともない。ところでこんな研究も良いが大学で雪を切ることだけ教えるのはちょっと困るといわれれば一言もない。だから早く切って、その切口を色々精密器械を使って測りたいのであるが、なかなか切れなかったのだから困っていたのである。しかしもう切れたのだからそのような御叱りを受けなくても良さそうで少し安心した。もっとも勝手な気焔を揚げてもよければ、精密器械の取扱い方を教えることも勿論大切ではあるが、一見不可能なことでも必ず出来ると思ってやれば大抵のことは出来るものだという体験を持ってもらうことも万更役に立たぬことでもなかろう。