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ゆきざっき
雪雑記
中谷 宇吉郎
「中央公論」1937(昭和12)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,988 字 · 20 页
其処へ実験台の小さいのを一つと顕微鏡とを運んで、冬の間は一度もあけたことのない引戸をすっかりあけ放すと、先ず準備は出来たのである。
札幌の一月は大体気温は零下七、八度位である。凍りついた引戸を無理にあけると、廊下のコンクリートの路面から二尺位も積み上った吹溜りの雪が、ぼろぼろとコンクリートの上へこぼれ落ちて来るのであった。そこで硝子板を紙につつんで外へ出して置いてすっかり冷え切ったところを取り出し、降って来る雪をその上に受けとって顕微鏡で覗くのである。なるほど今まで写真で見た通りの形をしている。実のところ、本当の雪を顕微鏡で覗いたのはこの時が初めてなのである。写真では黒白の線しか分らないのであるが、眼で見た時は、細い小凹凸があるために、繊細なあの模様の縁に空の光が反射して、水晶細工のような微妙な色が見えるのであった。しかし完全な結晶というのは稀であって、色々の形の汚い結晶が混っているので、それを取り除けるのが一骨であった。結局マッチの軸の頭を折って、そのささくれた繊維の端で欲しい雪の結晶を吊して綺麗な硝子板の上へ持って来ることになったのであるが、どうもとけやすくて困った。