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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
と縋りつくようにいうと、焦点のきまらないへんな眼つきで、ウロウロと白川のいるあたりをながめまわした。
「どこにいらっしゃるの」
「あなたの前にいます。わかりませんか」
「声は聞えるんですけど、なにも見えないわ。どうして、こんなに暗いのかしら。明るくしていただけないかしら」
と、あわれな声をだした。
「お気の毒だが、ぼくの力ではだめらしい。香世子さん、自覚していないらしいが、あなたはもう死んだんですよ」
「あたしが? へえ、どうして」
「クリスマス・イヴに、酔っぱらって車をすっ飛ばしたでしょう。あのとき、尾張町の安全地帯にぶっつけて死んだんです」
「でも、現在、こうしているじゃありませんか」
「そこにいるのは、あなたの霊なんです」
「霊って、なんのこと?」
白川がグッと詰まると、主事がすり寄ってきて、
「負けないで、負けないで……弱っちまっちゃいけません。どうしても言い負かしてしまわなけれゃ」
と耳もとでささやいた。
香世子に、お前はもう死んだのだと納得させるのに、白川はえらい骨を折った。この押問答に三晩かかったが、三日目になると、さすがの主事も呆れて、
「こんなわからない霊も、すくないです。