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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

白川の肩を平手でピシャリと叩いて、

「おじゃまでしょうけど、掛けさせていただくわ。お話したいことがあるのよ」

隣りの座席におさまるなり、

「大阪のほうのお仕事は、いかが? あたしどもは、さんざんなの。ごぞんじでしょうけど、あなたの思い出のある麻布の家も、競売に出ている始末で」

と調子の高い声で話しかけてきた。

うるさいと思うと、白川は相手になる気がなくなった。露骨に嫌な顔を見せて、

「仕事の話はいやだね。なにか、ほかの話をしましょうや」

素っ気なく突っぱねてやると、柚子は座席の背凭れで頭のうしろをグリグリやりながら、眼の隅から白川の顔を見て、

「雲の中ばかり飛んでいて、気のきかない操縦士だわね。ご退屈だろうと思って、お話をしに来てあげたのよ」

「べつに、退屈はしていませんよ。雲を見ていたって、結構、楽しめるから」

柚子は底意のある眼つきになって、

「雲の中に、なにか見えるのかしら。そうだったら、こわいような話ね」

ひとり言のようにつぶやくと、くすっと鼻の先で笑った。

小鳥ほどの脳味噌しか持っていないくせに、とうとうこいつもおれを馬鹿にしだしたかと、白川はムッとして、