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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

それで、いくらかでも、苦痛から救われるのですから」

「どう言えばいいのですか」

「ともかく、名を呼んであげて……あとは、私がここにいて、その都度お教えしますから」

白川は割りきれない気持のまま、

「香世子さん、香世子さん」

と悩める霊媒に呼びかけると、霊媒は額を膝におしつけるような窮屈な姿勢で、

「あたしをお呼びになるのは、どなたでしょう……あなた? ……白川さんですか? ……あたし、ここんところが、痛くてしようがないんです。なんとかしてくれないかしら……ねえ、助けてちょうだい」

冥土からいま着いたというような、ほそぼそとした声で、喘ぐようにいった。白川は思いが迫って、われともなく、

「ねえ、香世子さん」

と呼びかけながら、霊媒の肥った肩に手をかけた。主事は大あわてにあわてて、

「もしもし、そんなことをなすっちゃ」

白川の腕をとっておさえつけながら、

「身体にさわることだけは、やめていただかなくては……霊媒さんが眼をさますと、せっかく呼びだした霊がお上りになってしまいます。あなたがここでジタバタなすっても、どうなるものでもありませんから」

と苦い調子でたしなめた。