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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

1

山岳重畳という文字どおりに、山また山の甲斐の国を、甲州街道にとって東へ東へと出てゆくと、やがて上野原、与瀬あたりから海抜の高度が落ちてきて、遂に東京府に入って浅川あたりで山が切れ、代り合って武蔵野平野が開ける。八王子市は、その平野の入口にある繁華な町である。

――待って下さい、その八王子を、まだ少し東京の方へゆくのである。そう、六キロメートルも行けばいいが、それに大して賑かではないけれど、近頃頓に戸口が殖えてきた比野町という土地がある。

それは梅雨もカラリと上った七月の中旬のこと、日も既に暮れてこの比野の家々には燭力の弱い電灯がつき、開かれた戸口からは、昔ながらの蚊遣りの煙が濛々とふきだしていた。

丁度その頃、一人の見慣れない紳士が、この町に入ってきた。その風体は、およそこの田舎町に似合わしからぬ立派なもので、パナマ帽を目深に被り、右手には太い藤の洋杖をつき、左手には半ば開いた白扇を持ち、その扇面を顔のあたりに翳して歩いていた。彼はなんとなく拘りのある足どりをして道の両側に立ち並ぶ家々の様子に、深い警戒を怠らないように見えた。

町は狭かった。