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でんきかんばんのしんけい

電気看板の神経

海野 十三

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,480 字 · 29 页

青空文庫

の岡安巳太郎君が述べたてたものなんで、その聴手だった僕は、爾来大いに共鳴し、この論説の普及につとめているわけなんだが、全くその岡安巳太郎という男は、科学的殺人が便宜になった現代に相応しい一つの存在だった。岡安はいまも言うとおり、今日人殺しなんて容易に出来る、ところが自分は小学校時代から算術と理科がきらいで、中学生時代には代数、平面幾何、立体幾何、三角法と物理化学に過度の神経消耗をやり、遂にK大学の理財科を今から三年前に出た「お坊ちゃん」なのだ。科学知識とはまるで正反対の側に立っているという人間で、科学を呪うこと迚もはなはだしく、科学的殺人の便宜を指摘する夫子自身はいつか屹度この「便宜」の材料に使われて、自分はきっと天寿を俟つ迄もなく殺害せられてしまうに決っていると確信しているのだから、実に困ったものだ。この先生は、機械文明にも一応恐怖心を表明しているが、更に始末のわるいのは電気文明に対する絶対的の恐怖心である。機械文明の方は自動車にしても、汽車にしても、トロッコにしても(彼は一度郊外で、赤土を一杯積んだトロッコに轢かれ損ったことがある)、音響なり、速度のある車体の運動なりが、一応耳なり眼なりの感覚に危険を訴えて呉れるから、比較的安全だ。