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でんしゃのみえないでんしゃどおり
電車の見えない電車通り
宮本 百合子
「進歩」1934(昭和9)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,599 字 · 12 页
そこに、くっきりした字で285大浦と書いた紙がはりつけられている。きのうまで、この車には大浦何とかいう婦人車掌が乗組み、たとえばさっきのような角へ来た時は敏捷な動作で手を出しながら「左オーライ!」と呼んでいたのだ。自分の車をすて、自分の名の書いてあるニッケル色の光った箱をすて、彼女は仲間と一緒に合宿へ籠城している。紺のスカートを勢よくひろげて車座に坐り、熱心に報告をきいたり、歌をうたったり、またはほころびを縫ったりしている婦人車掌たちの様子が、私にはまざまざと見える。今度の整理案ではバスの婦人車掌、月収四十八円のところを、三十八円に減らされることになっているのである。
この頃では、バスの車掌もひところのように赤ん坊が生れたからと云って退くひとがなくなって来た。堂々子供をつれて職場にねばるようになって来た。
××終点の引かえし線の安全地帯に立っていたら、すぐうしろで、
「ストライキ見に来たよ」
と太い男の声がした。ふりかえって見ると、銀モールの太い紐をかけた潰し島田に白博多の帯をしめた浴衣姿の芸者がいて、男はその芸者屋の主人という風体である。絞りの筒っぽで、縮緬の兵児帯を尻の先にグルグル巻きにしている。