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でんしゃていりゅうじょう
電車停留場
豊島 与志雄
「女性」1923(大正12)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页
そのうちに時間は過ぎていった。そして高倉玄蔵と野口昌作との喧嘩に出合ったのだった。
初め彼は、出来るだけ温和な態度で臨んで、二人を無事に和解させるつもりだった。所が、顔に浮べようとする微笑や強いて装おうとするやさしい声の調子などは、朝からの焦慮と疲労とのために、中途で変にぎごちなく凍りついてしまった。その方へ気を取られてるまに、二人の争論はなお続いてゆき、一度目の暴行が起った。彼はいつになく落付を失った。高倉玄蔵から罵られて、自分でも不思議なほどかっとなった。それから野口昌作に逃げられて、群集の中からの嘲りに出逢うと、彼は片手に佩剣の柄を握りしめた。それでもすぐには口が利けなかった。そこを相手の方から先んぜられた。
「あの男が居なくなった以上は、僕一人警察へ行く義務はない。これで失敬する。」
そして高倉玄蔵は二足三足歩きだした。その手首を、沼田英吉はまた捉えた。
「兎も角も、本署へ同行して貰いましょう。」
「馬鹿なことを云うな。俺一人行って何にするのか。あの男を探し出して来給え。あの男と一緒ならいつでも行ってやる。取逃がしたのは君の責任ではないか。さあ捕えて来給え。