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でんしゃていりゅうじょう
電車停留場
豊島 与志雄
「女性」1923(大正12)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页
そして今彼は、温厚な君子然とした心持を懐いて、高倉玄蔵と沼田英吉との対抗に出逢ったのである。二人の和解を欲する余りに、相手や場所柄をも顧慮せず、自分の名刺をさしつけてしまった。
「万事穏便に計らった方が、皆のためになるというものだよ。」と彼は云った。
「は!」と沼田英吉は棒立になったまま答えた。
「僕は福坂署の署長とは懇意にしているから、君のこともよく話してあげよう。君の職務怠慢とはならないように、僕が一切の責任を帯びるよ。そして、君の名前は?」
沼田英吉は一寸たじろいだ。そして暫く考えていたが、何と思ったかいきなり頭を下げた。
「名前だけは容捨して頂きます。」
安藤竜太郎は微笑を浮べた。そして相手の肩を心地よげに叩いて云った。
「心配することはないよ、君。云いたくなければ、僕も寧ろ聞かない方が望みなんだ。では、これで引取ってくれるね。」
「はい。あなたがそう仰言るならば引取ります。」
それでも彼はまた一応、高倉玄蔵の方をじろりと見やった。安藤竜太郎はその視線を辿って、高倉玄蔵の方へ向き直った。
「君も余り強情を張らない方がいいでしょう。兎に角腕力沙汰は控えたが宜しいですよ。