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でんしゃていりゅうじょう
電車停留場
豊島 与志雄
「女性」1923(大正12)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页
」
それから彼がまだ弁舌り立てようとするのを、木原藤次は怒りを押えた眼付でじっと眺めた。このまま黙っていれば、自分の不甲斐なさを衆人の前に曝すことになるし、喧嘩をすれば、事が面倒になって結局損をするばかりだし、うっかり云い出した通りに、監督を呼ぶとすれば、車掌としての自分の無能を認められることになるし、はてどうしたものかと思い惑った。所が偶然、鬱憤を晴すべき機会がやってきた。
洋服の男は。監督という言葉を聞いて、いきり立って肩を聳かしたが、それから俄に口を噤んで、その口許にせせら笑いを浮べ、片手でポケットを探って、敷島を一本取り出した。木原藤次はここぞと思った。そして機会を遁すまいとあせって、すぐ大声につっ込んでいった。
「煙草はいけません。」
男ははっとした様子で、口へ持って行こうとした手先を胸の所で止め、黒ずんだ眼を一寸見据えたが、俄に反り身になって、煙草を車掌の鼻先へ差出した。
「煙草が何でいけないんだ?」
「車内では禁じてあります。」
「馬鹿云え!」と男は一喝した。「禁じてあるのは喫煙だ。煙草を持つことがどこに禁じてある? 貴様の眼は何処についてるんだ? さあ云ってみろ、俺がいつ煙草を吸ったか。