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れいかん
霊感
豊島 与志雄
「中央公論」1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,268 字 · 31 页
名前だけはあくまでも祕して、という条件で、小泉さんと一緒に出かけて行くことにしました。
約束の日に、A女は自分の身に御経がけをして出かけました。普通の行者なみに見られては忌々しいものですから、入念にお化粧をし、お召の着物に塩瀬の帯、紋付の羽織をひっかけました。小泉さんはA女より少し背が低く、なんだか付添いの女中のように見えました。
松しまの入口は、手狭い洒落た造りで、そこをはいると、ゆるやかな上り勾配の地面に砂利を敷きつめたのが、思いがけなく広がり、突き当りに寒竹の茂みがあって、左手が玄関の式台となっています。
A女はちょっと、寒竹の茂みの前に足を止めました。
――ここだ。
音なき声がしましたが、彼女は素知らぬ顔をして、屋内へ通りました。
女中に案内されて、一室に落着きますと、すぐに女将さんも出て来て、みごとな菓子や果物のもてなしがありました。女将さんは顔の色艶もよく、言葉もてきぱきしていまして、髪だけが老年らしく引きつめに結ってあります。いろいろなことを口早に饒舌りました。おもに昔のことで、縁日とか祭礼とか、お酉様の話まで出ました。それにまた、午前中のこととて客はありませんでしたが、用が多くて、しばしば席を立ちました。