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きりのなか

霧の中

豊島 与志雄

――「正夫の世界」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页

青空文庫

背の低い中肉の女で、紫色と白線とが目立つ着物をきていた。眉がきれいに細長く弧をなしているのと、唇が薄くくっきりと際立ってるのとが、正夫の頭に刻みこまれた。両方とも画かれたものに違いなかった。その他のところは、眼も鼻も全体の顔立も正夫は覚えていない。――その三島さんの伯父さんとかがひどく憤慨してるのだと、山根のおばさんが南さんに話していた。ほんとにそんな挨拶をなすったのですか、というのだった。――私は彼女に、そのつど、十円とか二十円とか渡しておいた。こんどは何々を買おうといって、いつも喜んで貰っていったのだ。私はカフェーの女給なんかとそんなことがあっても、一文も出したことはないのだ。彼女にだけは金を払った。それで文句があるのですか、よく考えて貰いたい。――そんな挨拶をなすったのですかと、山根さんは穏かに聞いてるのだった。――その三島さんの伯父さんが、南さんと二階の室で一時間ばかり対談して、静に帰っていった。南さんは普通の訪問客を送り出す時と同様、平然としてそして鄭重だった。山根さんも取り澄していた。――其後、木原さんが来た時、山根さんはひどく怒ったらしかった。