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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

その中程に、仕立てのいい背広をメチャメチャに引き千切って、彼方此方鮮血にさえ彩られた、島幾太郎こと兇賊の首領大谷千尋、切りに警官隊の中を漁って居りましたが、やがて、文士宇佐美六郎とは似もつかぬ、秀俊慧敏な名探偵、花房一郎の顔を見ると、観念したようにその眼を閉じます。

「オイ島君」

声だけは以前の宇佐美六郎のままの花房一郎、ズカズカと進んで、後ろ手に縛られた、大谷千尋の肩にその手を置き乍ら、

「このゲームは私が勝ったようだな」

蟠りもなく言い放って相手の顔を斜に差しのぞきます。

「今のところではネ」

大谷千尋も敗けじと、手軽な調子でそれに応じます。

「花房一郎は確かに大谷千尋を捕まえたよ、国民劇場の総見位は奢ってもらえるだろうな」

「お易い事だ、が、大谷千尋も少し油断をしたよ、油断さえしなきゃア」

大谷千尋は思わず歯を喰いしばります。その無念の形相を後ろに、立ち去ろうとする花房一郎の背後から、

「待った花房」

「何んだ」

「もう少し話がある」

大谷千尋は声をかけます。

「今となって未練ではないか」

「いや、助けてくれいと言うのではない、この大谷千尋ほどの者がたくらんだ今宵の襲撃を何うして知ったか、それが聞き度い」