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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

暫らく黙って居た大谷千尋、この時漸く顔を挙げて、

「有難う花房探偵、今その理屈が解ったところでもう遅い。ところで最後に一つ、俺にも善根を施さしてくれ、それはその金庫に縛られて居る女だ、多分花房探偵ほどの者も気が付かなかったろうが、自堕落な始末の悪い気違いとばかり思って居たその女が、世にも稀な貞女だということを、今晩はじめて俺は知ったのだ。この寒さに、何時までもそのままで置いては可哀想だ、色後家ならこのお仕置もいいが、貞女と解っては、その半裸体が、俺が自分でした事ながら見ちゃ居られない、大急ぎで縄を解いて暖めてやってくれ、それが、三年前にその女から夫を奪った、俺のせめてもの好意だ」

大谷千尋ほどの者も、悲痛な面をあげて、花房一郎の顔と、金庫の前の美女とを見比べるのでした。

「よく言った」

花房一郎は駆け寄って、半裸体の美女を抱き起し、急しく縄を切り払って、脱がせ、着物を着せてやりました。

「ウム――」

僅に通う息、美しい貞女は、夢心地に眼を開いて、漲る明りの中に、この異様な光景を見廻しました。