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あおいくさ
青い草
小川 未明
「教育行童話研究」1938(昭和13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,244 字 · 7 页
低い柵には鎖が張られていたが、大人なら造作なくまたいで入ることができたのです。義坊の父親が立って尺八を吹くのはその柵のところでした。
「いつか、よっぱらいが、たおれていたところへ草が芽を出した。」と、義坊はいいました。どこのおじさんであったか知らないが、お勤めの帰りによっぱらったとみえて、黒い外套は泥だらけであったし、握っている洋傘が、折れそうに、曲がっていました。巡査が見たら、なにかいうであろうと、義坊は、心配をしたが、そのとき、巡査は通ったけれども目に入らなかったようです。その後、雨が降りつづきました。その雨で草が生えたのでありましょう。
土曜の日には、早くからここへきて、父親は尺八を鳴らしたのでした。
ふいに、義坊が叫びました。
「あっ、あんな花が咲いた!」
小さな白い花が、草に咲いたのであります。ガラス窓のうちで、仕事をしている人にもまた、この鋪道を通る人々にも、おそらく、この花は知られなかったでしょう。ただ、これに気のついたのは、自分ばかりのように思えて、義坊は、なんだかうれしくてしかたがなかったのです。
彼は、柵の下から頭を突っこんで、腹ばいになって、その花を取ろうとしました。