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あおバスのおんな
青バスの女
辰野 九紫
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页
「そこが、それ、憤慨居士の功徳だろうさ」
なんかんと、いやにしんみりしながら、又しても犬も喰わぬうさぎ屋の最中を一つ口に入れたものである。
だが、然し、世間はそれ程甘く出来ていないことも、僕はその後五日目に漸く承知したのである。――それは、曩に不親切にして、今親切なる青バスの女車掌、大西冬子嬢から僕に来た手紙を読んで貰えばわかる。――
× × × ×
先日は久し振りでお目にかかれて本望でした。あなたは広小路から黒門町へのカーブの地点で、私の名札を見て、ようやく私であることにお気がつかれたようでしたが、私は上野でお乗りになる時から存じて居りました。でも、あんな慎しやかな奥様があって、あんな可愛らしいお嬢さんや赤ちゃんがおあんなさるお方とは夢にも存じませんでした。
何故あなたは急に周章て、御自分だけ途中下車なさいましたの。随分卑怯な方ね。私こそ、別に恨みがあるわけでなしお詫びと御礼を申上げなければならない。忘れられないあなたでは御座いませんか。それに奥様ばかりでは、ちとお骨の折れる程、瘤付きなのに、生憎車掌が私であった為めに、邪けんにも買物にかこつけて逃げるなんて、私、奥様がお気の毒でしたわ。