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あおバスのおんな

青バスの女

辰野 九紫

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页

青空文庫

それにしても随分おせっかいな方だなんて、……御免なさい。家中でよく笑いました。それから五六日経って、あなたは私共の店へ、後にも先にも、僅た一度切りおいでなさいましたわね。後で従兄が申しますには、「冬ちゃん、お前どう思う。俺はどうも今の人がそうだと思うんだが……」と、看板の英語の一件の御当人らしいと言うのです。あの店は御承知の通り、正面にも鏡がありますので入口の横の窓を開けて置きますと、往来の人は一度は必ずあの中に映ります。それであのおハガキを頂いてから、従兄は「其看板が直ったか否か、きっと見に通るに違いない。通れば並みの人と視線のやり場が異う」と申しまして、注意を怠らなかったそうです。その怪しい視線とやらを、看板に投げたあなたが、お客様になってお入りになりました。それもまだお頭髪に手入れしなくても宜しい位なのに、お刈りになったので、的確そうと決めたのだそうです。が、あなたからは一言も看板のお話しはなさらないし、又当方から申上げるのも失礼と存じてそのまま、只今まで過ぎて終いました。遅蒔きながら従兄に代りまして、改めて私から御礼申上げます。

其後、徒弟も参りましたし、まだ他にいろいろの事情がありまして、私は青バスに入りました。