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あおバスのおんな
青バスの女
辰野 九紫
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页
「ハイ、有難う御座います」で、百文も失わずに済んだではないか。
さて又、本所太平町のバラック長屋に住い、可憐なる孝行娘の納豆売りを、薄給の身でありながら、人知れず扶けて茲に六箇月という感ずべき青年巡査表彰の記事が新聞に出ると、これ亦薄給の小店員が、日本橋区KN生などと、夜学で覚えた羅馬字で、金一円也を孝行娘に届けて貰いたいと、天下御法度の現金輸送という奴で、紙幣のまま封込んだ添手紙が新聞社宛に托される。そうかと思えば、貧者の一灯、長者の万灯、太平洋横断飛行に、東京、無名氏より、金一万円寄附の記事が、同じ新聞に掲げられる。両者共に美事善行である。だが然し、住所姓名明記なきものとして、所謂没にはならないのである。
そこで、僕惟うに、人身攻撃、悪口の斬捨御免でない限り不注意な誤謬を注意してやる程度のものならば、敢て堂々と本名を名乗るにも及ぶまいと、マイナスをプラスにする家常茶飯の注意を促すには、凡て無名を以てしている。例えば、府下大井町の呑み友達の家へ行く省線から降りての途中、床屋の新店が出来てたとする。然り、床屋――理髪店とか、調髪師と称するには、余りに狭い間口であり、余りに二十箇月月賦販売丸丸商会仕入れの椅子である。