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あおバスのおんな
青バスの女
辰野 九紫
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页
現今でもそうではあるが、当時の日本人には、公徳心なんて小学修身書にも珍らしい文字であった。
斯の如く僕の公憤心?は幼にして衆に優れていたらしい。されば長ずるに及んで、「空前絶後の大捷を博せる云々」と、日露戦役に於ける日本海大海戦の勝利を、二十年後に歓喜している在郷軍人会××分会の記念表祝ポスターが町の辻々に貼られた時には「絶後とは何だ。分会長健在なりや」と、早速、忠勇義烈の日本国民を代表せる公憤を、一銭五厘に托して発したこともある。その他、講釈師見山が、田宮坊太郎の先祖を「北朝の忠臣」なんて臆面もなくやったり、浪花節の燕月が「テームス河の上流に於て、海の藻屑と消え果てたり」なんて、新人振ってうなるのを聴いて、僕がどんな態度に出たか、等、等、等、書けば際限もないが、この憤慨居士の公憤の余波を蒙って、立身出世に大障碍を醸した女があるのだから、僕も亦罪な男ではある。
事柄は至って簡単だ。昨夏、日本橋から銀座まで、何かの用で急ぐことがあって、青バスに乗った。乗ってから一寸困ったことには、小銭が五十銭玉と銅貨二個。――僕自身の内規では、二割以上の買物をしないで大銭を崩すことは仮令当方がお客様であっても罪だと思っている。