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せいしゅんろん

青春論

坂口 安吾

「文学界 第九巻第十一号、第十二号」1942(昭和17)年11月1日、12月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,657 字 · 69 页

青空文庫

間一髪のところで勝ったのである。

小次郎は激怒して大刀をふりかぶった。問答に対する答えとしての激怒をこめて振りかぶった刀なのだ。この機会を逃してならぬことを武蔵は心得ていた。なぜなら、小次郎に時間を許せば、彼も手練の剣客だから、振りかぶった剣形の中から冷静をとりもどしてくるからである。

武蔵は急速に近づいて行った。大胆なほど間をつめた。小次郎は斬り下した。だが、小次郎の速剣は初太刀よりもその返しが更に怖しい。もとより武蔵は前進をとめることを忘れてはいない。間一髪のところで剣尖をそらして、前進中に振り上げた木刀を片手打ちに延ばして打ち下した。小次郎は倒れたが、同時に武蔵の鉢巻が二つに切れて下へ落ちた。

小次郎は倒れたが、まだ生気があった。武蔵が誘って近づくと果して大刀を横に斬り払ったが、武蔵は用意していたので巧みに退き袴の裾を三寸程切られただけであった。然しその瞬間木刀を打ち下して小次郎の胸に一撃を加えていた。小次郎の口と鼻から血が流れて、彼は即死をとげてしまった。

武蔵は都甲太兵衛の「いつ殺されてもいい」覚悟を剣法の極意だと言っているが、彼自身の剣法はそういう悟道の上へ築かれたものではなかった。