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せいしゅんろん

青春論

坂口 安吾

「文学界 第九巻第十一号、第十二号」1942(昭和17)年11月1日、12月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,657 字 · 69 页

青空文庫

当時は殉教の心得に関する印刷物が配布されていて、信徒達はみんな切支丹の死に方というものを勉強していたらしく、全くもって当時教会の指導者達というものは、恰も刑死を奨励するかのような驚くべきヒステリイにおちいっていたのである。無数の彼等の流血は凄惨眼を掩わしめるものがあるけれども、人々を単に死に急がせるかのようなヒステリイ的性格には時に大いなる怒りを感じ、その愚かさに歯がみを覚えずにいられぬ時もあったのだ。

いのちにだって取引というものがある筈だ。いのちの代償が計算外れの安値では信念に死んでも馬鹿な話で、人々は十銭の茄子を値切るのにヒステリイは起さないのに、いのちの取引に限ってヒステリイを起してわけもなく破産を急ぐというのは決して立派なことではない。

宮本武蔵は吉岡一門百余名を相手に血闘の朝、一乗寺下り松の果し場へ先廻りして急ぐ途中、たまたま八幡様の前を通りかかって、ふと、必勝を祈願せずにいられない気持になり、まさに神前に額ずこうとして、思いとどまった。自力で勝ち抜かねばならないという勇猛心を駆り起したのである。

僕はこの武蔵を非常にいとしいと思うけれども、これはただこれだけの話で、この出来事を彼の一生に結びつけて大きな意味をもたせることには同感しない。