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あおおにのふんどしをあらうおんな

青鬼の褌を洗う女

坂口 安吾

「愛と美」朝日新聞社、1947(昭和22)年10月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,368 字 · 79 页

青空文庫

けれどもノブ子さんは肉体的欲求などは事実において少いのだから、別なことで苦しんでいる様子であったが、それは営々と働いて、自分の生活はきりつめて倹約しながら、人のために損をする、それを金々々、金銭の奴隷のようなことをいう田代さんが、いいのだよノブちゃん、それでいいのだ、という。しかし実際それでいいのか、自分の生活をきりつめてまでの所得を浪費して、そして人を助けて果して善行というのだろうか、疑ぐっているのであった。

ノブ子さんはともかく田代さんや私たちがついているから損をしても平気だけれども、独立したら、こんな風でやって行けるかと考えて苦しんでいるので、実行派のガッチリ家、現実家だから、その懊悩は真剣であった。

「女が自分で商売するなんて、サチ子さん、まちがってるんじゃないかしら。私、このまま商売をつづけて行くと、人に親切なんかできなくなって、金銭の悪魔になるわよ。そうしなきゃ、やって行けないわよ」

「そうね」

私は生返事しかできないのである。ノブ子さんの懊悩は真剣で、実際その懊悩通りに金銭の悪鬼になりかねないところがあったが、私はしかしノブ子さんその人でなしに、その人の陰にいる田代さんのガッチリズムの現実家、ころんでもタダは起きないくせに、実は底ぬけの甘さ加減がおかしくて仕方がないのだ。