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ひじょうのあい
非情の愛
豊島 与志雄
「中央公論」1947(昭和22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页
同じような服装で髪をおさげにした童女が一人、室の下手の隅に控えていた。――他にも一人、屈強な男がついて来たが、これは自動車の中に運転手と共に居残って、決して座敷へは通らないそうだった。
美春さんが室の中央に坐っていた。痩せた小柄な女で、病中だと思わせるほど髪の艶がなく、その代りに眼が光り、へんに口が尖って見えた。ずっと下って、身体の不自由らしい白髪の老人がいた。近所の人らしかった。
秦と千枝子とは襖ぎわに控えた。
神子は香を焚いた。
暫く沈黙のあとで、彼女は向き返って言った。
「眼に見えるものを信じなされてはいけませぬ。心に見えるものを信じなされませ。」
澄んで冴えた美声だった。一息おいて、彼女はまた繰り返した。
「眼に見えるものを信じなされてはいけませぬ。心に見えるものを信じなされませ。」
彼女はまた香を焚いた。口から外へ殆んど洩れない声で何か誦した。それが非常に長い時間だと思える頃、卓上に置かれてる如意を取って向き返り、千枝子の前に来た。
「初めてのお方のようでありますが、如意を預かれますか。」
「はい。」と千枝子は躊躇なく答えた。
そして彼女は如意を受取り、それを礼拝して、神子に返した。