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ひじょうのあい
非情の愛
豊島 与志雄
「中央公論」1947(昭和22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页
彼女は素直に握手に応じた。波多野は秦にいった。
「秦君、あらためてこのひとを紹介しよう。魚住千枝子といって、僕の母の遠縁に当るひとだ。長く僕の家に同居している。僕は君のおかげで、このひとをはじめて見出したような気がする。これから、このひとも、僕等の仲間に引張りこむから、承知しておいてくれよ。」
秦はなにか腑に落ちないような面持ちで、ただ頷いた。
波多野はグラスを幾杯かあけた。千枝子もそれに応ずるようにコップをあけた。
波多野は立ち上った。
「今晩は、僕はこれで失礼するよ。君達はゆっくりしていってくれ。大田にそういっておくから。」
それから後は千枝子を顧みた。
「さあ行きましょう。」
二人はあわただしく出て行った。外は月夜だった。――彼等はそれから、自宅まで三キロほどの道を歩いていったらしい。
彼等が出て行くと秦はふいに言い出した。
「似ている。なんだか似ている。」
「何が似ているんだい。」
秦は遠いことを考えるような調子で、ぽつりと言った。
「柳丹永。」
魚住千枝子が柳丹永に似ているかどうか、そんなことは別として、柳丹永のことが夢の中のように私の頭に浮んだ。