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ひじょうのあい
非情の愛
豊島 与志雄
「中央公論」1947(昭和22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页
銀杏の葉はもう黄色くなって、風に吹き散るには早いが、ちらほらと落ち初めてる頃だった。その落葉の中から、形の完全な美しいのを選り拾って、ポケットにつめこんできたのである。それを彼は一枚ずつ、食卓の上に並べて、楽しんだ。卓上がまっ黄色になることもあった。――街路でか、またはどこかの広場でか、それだけの銀杏の葉を拾い集めてる彼の姿を想像すると、波多野は心からおかしがって笑った。だがそのおかしさは、秦には全く通じなかった。彼は腑に落ちない顔つきで、黄色い葉を一枚ずつ取り出して卓上に並べた。
銀杏はまた鴨脚樹とも書く。或る地方では、子供たちが、銀杏の葉を鴨に見立てて、それを川に泳がして遊ぶ。それは流れる水の上では長くは浮かない。各自は自分の鴨を川に放って、長く泳いだのが勝ちとなる。――そのようなことを、秦は楽しそうに、思い出のように語って、酒を飲んだ。
「その銀杏について、僕は面白いことを発見した。」
それがまるで他国のことででもあるような調子で、波多野は話した。
「僕の家の近くに神社があり、その境内に大きな銀杏の木が聳えている。この木のそばに稲荷様がある。稲荷様には、君も知ってる通り、本堂があって、それから少し離れたところに、お蝋所と称する場所、蝋燭や種油などの灯明をつけて祈念する場所が、たいていあるものだ。