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おもかげ

面影

小川 未明

ハーン先生の一周忌に

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,048 字 · 8 页

青空文庫

詩人の情のこもれる、やさしい声で而も物哀れに語られたことがあった。而してその時に自分は稚児が現世ならぬ薄青い夢の世の熱い夏の真昼頃、なんでも広い広い桑畑でただ独り、その裡をさまよいながら、蜻蛉を取っている姿のありありとして見られたのである。

*      *      *

不思議なるは人生の行路、誰か自分の運命を知るものがあろう。……ふりさけ見れば千万里、海や、雲を隔てて異郷の土に冷かに眠るさすらい人の身を哀れむのである。而してもう、あの柔和な面影は再び見られない。艶麗な筆も既に霊なきものとなった。

ただ永劫に吹く風の、悲しい余韻を伝えるばかり。

自分は茫として人の身の上を思うていたが、やがてまた我が身の上を悲しく感ずるのである。光明の郷に憧がれて、迷う孤雲の如く、幽かなる光を放ち、漫々たる西の大空に浮ぶ。暗、愁え何処に果は落ち行くであろう。……うす紫に匂う、希望の星の光は遠い。……去年の秋、この道を歩いた時は、恋しい影が従いていたものを……今は思いにやつれしさすらい人!

いでやこの涙を捧げものにして詩人の墓を訪おう。……ああ、おそろしい風! このあたりは落葉で径も見えぬ。