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おんぱのさつじん
音波の殺人
野村 胡堂
「新青年」1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页
千種は時間も疲れも超越して、三面六臂振りを発揮しました。
「岡崎は隣室で、カクテルを拵えて居た相だ、藤井は若菜とピアノの前に掛けて、ジャズか何んかを連弾して居た相だ、――連弾ピアノの音と、若菜の歌が聴えて居たって言うからこれは嘘じゃ無い」
「それから」
「ピアノの最高音と、柱時計の十一時を打つ音と、消音装置をした拳銃の音と一緒だった相だよ、若菜と並んでピアノを弾いて居た藤井が、若菜が撃たれたのも知らずに、三四小節先まで一人で弾いて行って、若菜が後ろへ引っくり返ったんで気が付いた相だ」
「フム、それから――」
千種十次郎の鉛筆は、恐ろしいスピードで動きます。早坂勇の電話が、直ぐ文章になるのは、長い間の熟練で、こればかりは、どんな名文家も真似の出来ない芸当です。
「起して見ると拳銃の弾丸が、左背中の肩甲骨の下から、心臓の真ん中を射貫いて居た、――其処へ隣室の岡崎も、廊下に居た鳥子も、女中や弟子達も駆け付けたんだ」
「兇器は?」
「ピアノから一間ばかり後ろ、入口の扉と死骸の間に落ちて居た。支那絨毯の上へ――」
「フム」
「幸い岡崎敬之助はアマチュアだが探偵小説も書くので、死骸にも拳銃にも手を触れさせず、直ぐ所轄署へ電話をかけた」