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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
――清三はふっと顔の熱くなるのを覚えながら、さあと云ったまま返辞に窮して眼の前にある康子の白い足袋を履いた小柄な足を見ていた。
「お正月まで?」
康子が云った、清三はただ笑って答えた。康子の表情が月光の下でちょっと変った、が清三はその変化の解釈がつかなかった。
青木が汀で野蛮な声を張上げて詩を吟じ始めた、それを合図のように康子はすっと立上った、清三も続いて砂から尻をあげた。
清三は温い幸福なものを抱いて寝た、夜晩くまで階下で康子の咳く声がしていた。
清三はじゅうぶんこの新しい家に満足できた、そして当分この温い情的な(云い得べくんば)家に慰まぬ心を隠しておこうと思った。
二三日してから大阪に来ている先輩を訪ねて為事を求めてみた。その男はすぐ引受けてくれた、そして間もなくKという雑誌の為事を見付けてくれた、下らない手伝いに近いものではあったが遊んでいるよりはましだと思ってすぐその日から堂島に近いその会社へ通勤し始めた。
「早く帰ってらっしゃい」
康子はかならず朝、門の裏まで送って来てそう云った、清三はいつもそれに感謝の笑で応じた。帰って来て清三が門を潜るとかならず康子の白い割烹着姿が玄関の式台に現れた。