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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

16 菊香水

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 26 页

青空文庫

並九曜の紋のついた浜縮緬の単衣羽織をフワリと着せかけると、また、もとの席までもどって行って、首をかしげながらつくづくと眺め、

「よく、おうつりになりますわ」

「てへへへ、馬子にも衣裳というやつ」

「その洒落は古うございます」

と、はね返しておいて、両手をつかえて、

「御用をうけたまわります」

顎十郎は、恐悦のていで長い顎のさきを撫でながら、

「そう改まれるとちと気がさすが、せっかくのことだから、遠慮なく申しますぜ。……酒のほうは、すこしねばるが、花菱に願いましょう。銚子では酒の肌が荒れるから、錫のちろりで、ほんのり人肌ぐらいに願います」

「かしこまりました」

「……最初は、まずお吸物だが、こいつは鯛のそぼろ椀ということにいきましょう。皮を引いたらあまり微塵にせずに、葛もごく淡くねがいます。さて、……ちょうど、わらさの季節だから、削切りにして、前盛には針魚の博多づくりか烏賊の霜降。つまみは花おろしでも……」

「かしこまりました。煮物はなんにいたしましょう」

「ぜんまいの甘煮と、芝蝦の南蛮煮などはどうです。小丼は鯵の酢取り。若布と独活をあしらって、こいつア胡麻酢でねがいましょう」