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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

16 菊香水

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 26 页

青空文庫

顎十郎、または『顎化け』ともいわれる、北町奉行所の帳面繰り、仙波阿古十郎。

本郷真砂町の裏長屋、荒物屋の二階借り。のぞきおろすといかにも貧相な露地おく。日あたりの悪い窓がまちに腰をかけて、いま受けとった手紙のことを考える。

その手紙は、白痴面の中間へ返してしまったから、文章までもおぼえてはいないが、おもむきはよくわかっている。

ひと口には、なんとも形容しかねるような奇抜な趣意だった。

……高位の御人命にかかわる奇異な事態につき、極秘に御智慧を拝借いたしたく、はばかりながら、今夕、五ツ刻、拙宅まで御光来をねがわれますれば幸甚のいたりでございます。御入来のせつは、なにとぞ、西側の裏木戸から。これは、押せばひらくようになっております。いささか仔細がござって、一切お出むかいはいたしませんから、泉水について、飛石づたいにどんどんお進みになると、その奥に数寄屋ふうな離れ座敷がありますから、委細かまわずそのまま縁からおあがりなさって、差しおきました緋色繻珍の褥に御着座になり、脇息に肘などをおつきなされ、尊大なる御様子にて半刻ほどお待ちねがいます。御無聊のこともあろうと存じ、いささか酒肴の仕度をいたしてございます。