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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

12 咸臨丸受取

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,707 字 · 20 页

青空文庫

顎十郎の声をききつけるより早く、ひょろ松は奥から泳ぎだし、喰ってかかるような調子で、

「阿古十郎さん、ひどく気をもませるじゃありませんか。……いったい、今日までどこに雲がくれしていたんです」

顎十郎は、懐手をしてのっそりと突っ立ったまま、

「じつは、長崎のほうに友達ができてな、ちょっとそこまで行って来た」

ひょろ松は、ムッとして、

「冗談なんぞをいってる場合じゃありません。……こっちは、たいへんなことになってるんです。しっかりしてもらわなくっちゃ困ります。……それで、なにか見当がつきましたか」

顎十郎はケロリとして、

「引きうけたおぼえはないが、見当だけはつけてやった」

ひょろ松が、相好をくずしてあわて出すのを、顎十郎は手でおさえ、

「それで、南じゃ、このごろ、どんなことをやっている」

ひょろ松は、藤波とせんぶりの千太が、弥太堀に人数を張りこまして大わらわになっていることを話すと、顎十郎は、ふんと、鼻を鳴らして、

「こりゃア、ちと物騒なことになってきた。まごまごするとお蔵に火がつく。……南でやろうが、北でやろうが、おれにしちゃ、どうでもいいようなもんだが、なることなら、やはり叔父貴に手柄をさせてやりたい。