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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

01 捨公方

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,022 字 · 36 页

青空文庫

目安箱

二年ぶりで帰る江戸。

懐手のままで、ぬうと脇阪の中間部屋へ入って行く。

上り框で足を拭いていたのが、フト顔をあげて顎十郎を見ると、うわあ、と躍りあがった。

「先生……いつお帰りになりました」

「いま帰って来たところだ。……甲府は風が荒いでな、おれのような優男は住み切れねえ。……おい、またしばらく厄介になるぞ」

「あっしらあ、先生に行かれてしまってから、すっかり気落ちして、とんと甲府のほうばかり眺めて焦れわたっておりました。……おい、みんな、先生が帰って来なすった。……早く、来い来い……」

奥からバタバタと駈けだして来た陸尺に中間。

「いよう、先生、ようこそお帰り」

と大はしゃぎ。担ぐようにして奥へ持って行く。

その翌朝、七ツ頃、顎十郎は岩槻染、女衒立縞の木綿の着物に茶無地の木綿羽織。長い顎を白羽二重の襟巻でしっかりとくるんでブラリと脇阪の部屋を出る。亀の子草履に剥げっちょろの革の煙草入を腰にさげているところなどは、どう見ても田舎の公事師。

「どういういきさつなのか知らないが、いずれ曰くは目安箱の中にある。……ところもあろうに評定所から目安箱を盗み出すなどというのは、少々、申訳がないが、国の乱れを防ぐというのでありゃあ、それも止むを得んさ。