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かお

顔

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页

青空文庫

男になれよ」

が、彼はふと訝しそうに眼をルイザの顔に移した。ルイザは彼が何か云うのかと思った。ところが、仕立屋はそのまままたさりげなく嬰児を覗き込んだが、今度はほんのお義理で、ちょいちょいとフランツの頬を突つくと、さっさと、一言の挨拶もなく男達の群に戻って行ってしまった。

ルイザは、鋭い痛みが、胸の真中を刺しとおしたように感じた。

何という変な爺さんなのだろう。

程なく、ルイザの囲りは新たに賑やかになって来た。

彼女のまわりでは、女達の白い大頭巾が彼方此方に揺れ、絶間ない話し声が漣(さざなみ)のように拡った。そのうち誰か一人が、後を振向いて一寸傍によった。その前に喋っていた女は言葉を切ってその方を見、途をあけた。ルイザが縫物を習ったことのある配便局の細君が、まるで町風に派手な帽子をつけ、踵の高い靴を耀かせてやって来たのであった。

郵便局の細君は、ルイザに近よりきらないうちから誰よりも大きな声で話し出した。

「まあまあ、立派な阿母さんにおなりだこと。ついこの間までほんのねねさんだと思っていたのに――」

ルイザの後に立つと、彼女は、傍で挨拶をした一人の女を見向きもせず、指環の三つ嵌(はま)った手を延して、レースをどけた。