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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
本当に、「こんな筈ではなかった」という笑い話。けれども現在の此の私は、作家以外のものでは無い。先生、と呼ばれる事さえあるのです。ショパンを見捨て、山上憶良に転向しましょうか。「貧窮問答」だったら、いまの私の日常にも、かなりぴったり致します。こんなのを民族的自覚というのでしょうか。
書いているうちに、何もかも、みんな、くだらなくなりました。これで失礼いたします。けさは朝から不愉快でした。少し落ち附いて考えてみたくなりました。なんだか、みんな不安になりました。けれどもお気になさらぬよう。失礼いたしました。
この手紙には、御返事は要りません。お大事に。
六月二十日木戸一郎
井原退蔵様
前略。
返事は要らぬそうだが御返事をいたします。
君の赤はだかの神経に接して、二三日、自分に(君にではない)不潔を感じて厭な気がしていたという事も申して置きます。自分は、君の名を前から知っていました。作品を読んだ事は無かったが、詩人の加納君が、或る会合の席上でかなりの情熱を以て君の作品をほめて、自分にも一読をすすめた事がありました。自分も、そんなら一度読んでみようと思いながら、今日までその機会が無く、そのままになっていました。