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かぜのたより

風の便り

太宰 治

1942(昭和17)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页

青空文庫

聖者の顔を装いたがっている作家も、自分と同輩の五十を過ぎた者の中にいるようだが、馬鹿な奴だ。酒を呑まないというだけの話だ。「なんじら祈るとき、偽善者の如くあらざれ。彼らは人に顕さんとて、会堂や大路の角に立ちて祈ることを好む。」ちゃんと指摘されています。

君の手紙だって同じ事です。君は、君自身の「かよわい」善良さを矢鱈に売込もうとしているようで、実にみっともない。君は、そんなに「かよわく」善良なのですか。御両親を捨てて上京し、がむしゃらに小説を書いて突進し、とうとう小説家としての一戸を構えた。気の弱い、根からの善人には、とても出来る仕業ではありません。敗北者の看板は、やめていただく。君は、たしかに嘘ばかり言っています。君は、まずしく痩せた小説ばかりを書いて、そうして、昭和の文壇の片隅に現われかけては消え、また現われかけては忘れられて、そうして、このごろは全く行きづまって、語学の勉強をはじめようか、日本の歴史を研究し直そうかと考えているのだそうですが、全部嘘です。君は、そんな自嘲の言葉で人に甘えて、君自身の怠惰と傲慢をごまかそうとしているだけです。ちょっと地味に見えながらも、君ほど自我の強い男は、めったにありません。