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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

親しい友達がもって来てくれた柄の大きすぎるホームスパンの古服を着て、ひろ子が彼の故郷からリュックに入れて背負って来た靴をはいて、いものやけるのを見ている。無期懲役で網走にやられていた重吉は、十二年ぶりで、十月十日に解放された。いが栗に刈られた重吉の髪は、まだ殆どのびていない。

ひろ子は、元禄袖の羽織に、茶紬のもんぺをはいて、実験用の丸椅子にかけ、コンロの世話をやいていた。

「さあ、もうこれはよくってよ」

「――あまいねえ。ひろ子もたべて御覧」

「網走においもはあったこと?」

「あっちは、じゃがいもだ。農園刑務所だからね、囚人たちでつくっているんだ」

「あなたなんか和裁工でも、じゃがいもぐらいは、たっぷりあがれたの?」

「東京よりはよかったさ。――巣鴨のおしまい頃はひどかったなあ……これっぽっちの飯なんだから。二くち三くちで、もう終りさ」

重吉は網走で、独居囚の労役として、和裁工であった。囚人たちが使ってぼろになったチョッキ、足袋、作業用手套を糸と針とで修繕する仕事であった。朝の食事が終ると、夕飯が配られる迄、その間に僅かの休みが与えられるだけで、やかましい課程がきめられていた。