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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

その下に体の大きい重吉がはげた赭土色の獄衣を着て、いがぐり頭で、終日そうやって縫っている。重吉の生きている精神にかけかまいなく、それが規則だからと、朝ごとに彼に向ってぶちこまれるボロ。どんな物音も立たない、機械的な、それだから無限につづいてゆく、惨酷さ。まるで、感傷がなく、ユーモアをもって縫っている重吉が、最後の糸どめをするのをひろ子は待ちかねた。そして、

「見せて」

手にとりあげて、それを見た。針めがそろっている。ひとつびとつは不器用な針目だが、それは律気にそろっている。そろった針目は、ひろ子の目に、重吉が坐らされていた板じきの上の薄べりの目とも映った。

「うまいだろう?」

「うますぎるわ、でもね、わたしはもう一生あなたには針はもって頂きたくないわ」

ひろ子は立って行って硯箱をもって来た。

「これはこうしておくの」

その日の日づけをかいて、和裁工石田重吉記念作品と、つぎきれの上に書きつけた。

さきへ二階へあがって、ゆっくり床をのべながらひろ子は、朝からのことを思いかえした。すべてのことが、重吉に云われた後家のがんばりを中心に思いめぐらされるのであったが、並んだ二つの臥床を丁寧にこしらえて行くうちに、ひろ子の心に、次第に深まる駭きがあった。