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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

焼跡にかこまれたその界隈は、初冬のしずけさも明るさも例年とはちがったひろさで感じられた。夜になると、田端の汽車の汽笛が、つい間近にきこえて来た。

「久しぶりで、たっぷり炭をおこしてあげたいけれど、あんまりのぞみがないわ」

「いいさ。寒けりゃいくらでも着られるだけ結構なもんだ」

ペンをもったなり口を利いていた重吉は、又つづきを書きはじめた。長い年月、ほんとうに温く、人間らしくあついものを食べることもなく暮して来た重吉は、今のところ、何でもあつくして、それからたべるのが気に入った。揚げたての精進あげまで、

「やくと、なおうまいね」

電熱のコンロに焙ってたべた。

「あつくしようよ」

おつゆでも、お茶でも、生活の愉しさは湯気とともに、というように、あつくするのであった。ひろ子には、そういう重吉の特別な嗜好が実感された。さっき、コンロに湯わかしをかけたとき、

「たしかに俺はこの頃茶がすきになったね」

重吉が、自分を珍しがるように云った。

「もとは、ちっとも美味いなんと思わなかったが……」

「この頃はみんなそうなのよ。ほかに何にもないんですもの。お茶の出しがらの葉っぱ、ね。