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ふうぼう
風貌
小山 清
――太宰治のこと
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,448 字 · 32 页
高梨さんはその後「駈込み訴え」の限定版を出した人である。目鼻だちの整った、なかなかの美男子であった。太宰さんの話に依ると、あるカフェーの女給が高梨さんの顔に見とれて、客の許に持っていく料理の皿を取り落し、ためにその客はプライドを傷つけられること甚しく、遂にはやけ酒に及んだと云う。そういう閑話の持主であったが、しかしなかなか笑わない人であった。三鷹の帰りはいつも終電車間際になる。一緒にがらんとした車中の人になるのだが、乗っている間高梨さんは一言も口をきかない。こっちがなにか話しかけると、必要なことだけは答える。しかしそれっきりであった。まるで私を親の仇とでも思っているような様子であった。園子さんが生れたとき、高梨さんは赤ん坊を入れる籠を祝った。園子さんを抱いている太宰さんの手つきを見て、高梨さんが「まだ板につかないね。」とひやかしたら、太宰さんは「永遠に板につかない。」と云った。真面目な口調であった。鴨居には佐藤春夫氏が園子さんの誕生を祝った自筆の桃の絵が額に入れて懸けてあった。太宰さんの話に依ると、佐藤先生は、どうせ太宰のことだから額に入れてやったところで懸けもしまいからと云って、絵だけを贈物にされたということである。