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ふうぼう

風貌

小山 清

――太宰治のこと

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,448 字 · 32 页

青空文庫

」と叫ぶ。あそこはなかなかいいところである。その頃甲府のお宅では奥さんの妹さんが椎茸を栽培していた。なかなかお上手で多大の収穫があった。私たちは椎茸と鶏を食べながら酒をのんだ。井伏さんはとさかを箸ではさんで、「これは腎臓の秘薬だ。」と云った。私が「岩野泡鳴の如きものですね。」と云ったら、一笑された。

それから私たちは甲府の下町にある梅ヶ枝という旅館に行った。ここは井伏さんの行きつけのところである。井伏さんはおかみに「なにか液体のようなものを。」と云い憎くそうに云った。井伏さんは卓袱台の上を手の平でさすりながら、うつむいて小声で云ったのである。私は井伏さんっておかしみのある人だなと思った。当時「液体のようなもの」には手軽にはお目にかかれなかった。おかみには難色が見えた。その座敷は長火鉢などもあって、おかみのプライベイト・ルームのようであった。井伏さんはそこにあった映画雑誌を手持ち無沙汰そうにめくっていた。すると昔から現代までの「金色夜叉」映画のいろんな場面の写真を掲載した頁が出てきた。井伏さんは「金色夜叉はいいねえ。鈴木伝明の間貫一はよかった。」と云った。