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ひだのかお
飛騨の顔
「別冊文藝春秋 第二三号」1951(昭和26)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,316 字 · 31 页
もっと名もない町や村で、自分の土地の旅人ぐらいしか泊らないような宿をさがして泊りこんで、古いヒダの顔や言葉が今もどこかにありうるかどうか、私のカンが最も新鮮な第一夜に昔ながらの土地の匂いを嗅ぎ当ててみたい、そう考えていたのだ。
ところが、ドシャ降りである。岐阜駅の鉄道案内所の話では、下呂以外に、ヒダの小さな駅に旅館があるかどうか、たぶんないだろうという話である。ドシャ降りでなければ、まだしもデタラメに下車して当ってみて、民家へもぐりこむ方法を案じることも不可能ではない。ドシャ降りでは仕方がないから、下呂へ降りた。
折からの土曜で旅館はたいがい満員らしかったが、予約した部屋がまだ一ツあいてるが、この汽車で予約の人が着かないからたぶん雨で来ないのだろうという次第で、水明館へすべりこむことができた。
私はこの旅行に「ヒダを語る」というウスッペラな通俗案内書を一冊だけぶらさげて出かけた。ところがこの本は水明館の死んだ先代の著した本だそうだ。その未亡人がやってきて、
「その本はこの土地では手にはいらなくて、一冊ほしいと探していましたが、よくまアお持ちですこと」