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ひだのかお

飛騨の顔

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第二三号」1951(昭和26)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,316 字 · 31 页

青空文庫

幾つかのコブがかたまって出来ている顔なのである。こういう顔はその後の旅中に男には三四見かけたけれども、女では彼女の顔が私の見た唯一のものであった。

「いつでしたか、ヒダの顔だと仰有ったお客様もありました」

と、女中は私の言葉を肯定した。ヒダの顔というものに気づいた人がいるらしい。

翌日、高山へたつとき、女中は駅まで送ってくれた。この日も雨であった。彼女は全然無口であったが、汽車のでるまで雨中に立っていた。私はヒダそのものに見送られているようなノンキな旅愁を感じたのである。

高山へつくと、長瀬旅館から車が迎えにでていてくれた。ただちに、雨中の市内をまわってもらう。

私がヒダ王朝の歴史をたしかめるために行かなければならないところは、概ね遠く山中にあるのだ。早朝に出発しなければならないし、雨の日では都合のわるいところであった。とりあえず国府のあとや、高山市内の神社をめぐって歩く。神社の表カンバンの祭神ではなくて、横ッチョに小さく祀られている陰の神サマ、そして恐らく本当の祭神たる神サマをかぎあてるためであった。たいがいの神社の裏手は大きな山で、古墳のようであった。